耐火木造建築とは

2004年、(社)日本ツーバイフォー建築協会とカナダ林産業審議会が共同で枠組壁工法による耐火構造の国土交通大臣認定を取得したことにより、防火地域における高齢者施設や、これまで建築できなかった施設が木造で建築することが可能になりました。
その認定を受けて、日本最大級の大規模なツーバイフォー工法による特別養護老人ホームを設計・監理をしました。
その経験の中で、耐火木造の良さ・建築後のメリット・働いている方の声を紹介したいと思います。

耐火木造建築とは

耐火木造建築とは、枠組壁工法(ツーバイフォー工法)による耐火構造の木造建築のことを言います。
各構造の部位を規定の仕様で耐火被覆して(覆う、囲うこと)、施工する建築のことを指します。
2004年(平成16年)に(社)日本ツーバイフォー建築協会とカナダ林産業審議会の共同により、枠組壁工法(ツーバイフォー工法)による「耐火構造認定」(表①)を国土交通省から取得したことにより、防火地域をはじめ、厳しい耐火建築の制限が設けられている高齢者向け施設等、様々な建築物へ耐火木造建築の道が開かれました。(表②)

表①

建築基準法第2条、第7号ならび同法施行令第107条の規定に基づく耐火構造の国土交通大臣認定
(※2004年4月時点で取得しているもの
構造部位 認定番号
外壁耐力壁の1時間耐火構造 FP060BE-0006
間仕切壁耐力壁1時間耐火構造 FP060BP-0005
FP060BP-0006
床の1時間耐火構造 FP060FL-0016
屋根の30分耐火構造 FP030RF-0054
階段の30分耐火構造 FP030ST-0002

※詳細の構造方法の名称等は日本ツーバイフォー建築協会のホームページに掲載されています。

 

表②

「耐火構造認定」を受けて建築可能となった用途

①延床面積が3,000㎡を超える建築物、または地階を除く階数が4以上の建築物 (建築基準法第21条)

②3階建て以上の特殊建築物(学校、病院、ホテル、共同住宅など) (建築基準法第27条)

③防火地域の100㎡を超える建築物、または地階を除く階数が3以上の建築物 (建築基準法第61条)

④準防火地域1,500㎡を超える建築物、または地階を除く階数が4以上の建築物 (建築基準法第62条)

⑤上記建基準法以外の法令等により耐火建築物が要求される高齢者施設や保育園等

 

ツーバイフォー工法とは

19世紀初めに北米で生まれた工法で、日本には明治初期に北海道に伝わります(札幌の時計台など)。
その後、昭和49年に技術基準が定められ、枠組壁工法(ワクグミカベコウホウ)としてオープン化され、様々な技術開発を得て今日に至たり、日本でもよく知られている工法の一つです。2インチ×4インチの規格材を多く用いられることから別名でツーバイフォー(2×4)工法と呼ばれるようになりました。
面構造による耐震性などの性能の高さに加え、空間設計の融通性や生産の品質が確保し易いこと、短い工期、経済性等様々な合理性が高く、環境にやさしい木造建築としても知られています。

ツーバイフォーの特徴

  • 構造耐力に優れた枠材と面材とが一体となった『面』で支える構造。モノコック構造(一体化構造)。
  • 面構造のため、高い断熱性や気密性が確保され、快適で、高性能な建物を実現できます。
  • 6面相互の緊結により建物を形づくるため、外力(地震や台風など)を建物全体で受け止め、荷重を
    一点に集中させることなく分散させるため、外力に対して抜群の強さを発揮
  • 木造の建物であることも顕著たる特徴。日本の高温多湿な気候にも、木の建物は冬に温もりを、夏には涼しさをもたらす優れた断熱性を持ち、雨の日は湿気を吸い、されど結露しにくく、乾いた日には湿気を放出する調湿作用もあり、天然の“エアコンディショニング能力”が備わっていると言われています。

ツーバイフォーの性能

デザイン性

基本は自由設計。プランもデザインも自由自在。耐火被覆した壁面の厚みが約20cm以上に及ぶことから、重厚感のあるデザインが可能になります。

耐震性

地震列島の日本。一般的に木造建築というと地震が来たら大丈夫なのだろうか・・・思われがちですが、ツーバイフォー工法は従来の柱と梁で建物の荷重を支える工法と違い、6面で建物の荷重を受け止めるため、従来の工法より地震などの一方向の荷重に対して、とても強いのが特徴の一つです。新潟県中越地(2004年10月)、また阪神淡路大震災(1995年1月)の際に、ツーバイフォーによる建物で倒壊したものが一つもなかったことは、この工法の強さ証明であり、記憶に新しい実績と言えます。

耐風性

近年、巨大化する台風にも耐えられます。1991年9月27日に日本を襲った台風19号は、最大瞬間風速・毎秒58.9mを記録(広島市にて)し、各地で甚大な被害をもたらしました。南~南西の風により九州、四国地方を中心に送電鉄塔が倒壊するなどの被害がみられる状況下でもツーバイフォーの住宅の被害はほとんどありませんでした

耐火性

『木は火に弱い』と思ったことはありませんか。木は意外と火に強いのです。木は燃えると炭化するだけで、躯体はしっかり残ります。ツーバイフォー工法は各居室を、壁・床・天井の6面体を耐火被覆で囲っているので、隣の部屋に燃え移りにくくできています。また、躯体の変形もほとんどありません。

耐久性

耐久性についてはコンクリートより劣るのではないかと思われがちですが、わが国の寺社仏閣に代表されるように、木造建築でも100年レンジで現存するものは少なくありません。またツーバイフォー工法によるもので、長い歴史をもつ建築物が国内にいくつか現存しています。大正期に建築された『冨永邸』(大正14年頃建築/神戸)や明治期に建築された『木下邸・別荘』(明治40年代の建築/大磯)などは、その代表的な建築物として知られています。住宅以外では、帝国ホテル旧本館を設計したフランク・ロイド・ライトによる設計で、国の重要文化財でもある『自由学園・明日香館』(大正10年建築/東京・池袋)は良質な状態で現存しています。また北米においてはツーバイフォー住宅が100年以上にわたり住み継がれている実例をみるに、耐久性に優れていると考えられます。

断熱性・気密性

面構造のため、高い断熱性・気密性が確保されます。また熱伝導率はコンクリートの14分の1、鉄の350分の1ときわめて熱を伝えにくい構造になっています。外気からの影響を受けにくく、室温を保ちやすいため、冷暖房等建物内で使用される光熱費の節約、省エネルギー化に貢献します。

可変性

構造区画が明確な工法のため増改築が容易です。 万が一、雨漏りなどの不具合が生じても、発見しやすく改修しやすいのも木造のメリットです。メンテナンス次第では十分長く利用できると考えられます。

居住性

上記の性能に加え、木の持つ癒しの効果にも大いに期待できます。木肌のもつ温もりや香り(木の発散する香りには、心身に良い成分が多く含まれている)など、人の五感に訴えるやさしさに加え、木の躯体ならではの「柔軟性」や「衝撃吸収性」も特徴の一つです。このようなことをふまえ、安心・安全で快適な空間を創出できます。

 

耐火木造建築を採用した場合のメリット

  • 建設コストがRC造の8割程度で可能に。
    • 重量が軽いため、基礎工事のコストダウンに。
    • RC造に比べて、工期の短縮が可能なため、労務費、保険料、光熱費等コストダウンに。
    • RC造の場合、木の型枠が必要。ツーバイフォーではそのものが躯体になるため、工期の短縮及びコストダウンにつながる。
  • RC造に比べて地球環境への負担を抑えられるやさしい工法
    • 木材を資材として活用することにより、炭素の固定化が行われ、大気中のCO2の抑制に。
      (※地球温暖化の原因とされる温室効果ガスをCO2に換算した場合、資材生産過程で発生する地球環境への負荷は、RC造と木造とでは約1・5倍の差があります。また建設時のCO2換算重量の比較ではRC造と木造建築では約2倍の差になります。)
    • 建物としての使命が終わった後の廃木材はリサイクル可能。
  • 耐火性をクリア(前述「耐火構造認定」の取得)
  • イニシャルコスト(初期投資金)の低減
  • ランニングコストの低減
    • 断熱性・気密性に優れているため、光熱費を低減できる。
      (例)はるかぜ(別府市)は低炭素住宅(施設)を目指し、50KW太陽光電池パネルを設置し、電気代が
      月12万円程度で済んでいる。(※お風呂は温泉)
  • 原価償却期間が短い(経理上、原価償却費が大きい)
    • RC造は37年。耐火木造建築は17年。
  • 住宅としての諸性能に優れているツーバイフォーの性能
  • 木造の良さ
    • やさしい床~転倒しても骨折しにくい。冷たくない。素足でも生活できる。疲れにくい。
    • 木のやさしさで利用者(高齢者)や介護スタッフの気持ちもやさしく和む(癒しの空間を創出)。
    • 入居者が落ち着いて生活する場所としてとらえやすい。コンクリートで囲まれた家(施設)よりも木で囲まれた家(施設)のほうが、本来日本人にはしっくりくる。